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名古屋地方裁判所 昭和44年(ワ)2640号 判決

原告 吉良秀継

〈ほか三名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 小林直人

被告 東和繊維工業株式会社

右代表者代表取締役 早瀬信夫

右訴訟代理人弁護士 桜川玄賜

主文

一、被告は、原告吉良秀継に対し金二六七万四六四四円およびうち金二四〇万四六四四円に対する昭和四三年一〇月七日から、うち金二七万円に対する本判決言渡の日からそれぞれ年五分の割合による金員を支払うべし。

二、被告は原告吉良サツ子に対し金二二八万〇二六四円および内金二〇八万〇二六四円に対する昭和四三年一〇月七日から、うち金二〇万円に対する本判決言渡の日からそれぞれ年五分の割合による金員を支払うべし。

三、被告は原告荒井成子に対し金三三万円およびうち金三〇万円に対する昭和四三年一〇月七日から、うち金三万円に対する本判決言渡の日からそれぞれ年五分の割合による金員を支払うべし。

四、被告は原告株式会社中西製作所に対し金二二万四五〇〇円およびうち金一九万四五〇〇円については昭和四三年一〇月七日から、うち金三万円については本判決言渡の日からそれぞれ年五分の割合による金員を支払うべし。

五、原告らのその余の請求を棄却する。

六、訴訟費用はこれを六分しその三を被告の負担とし、その二を原告吉良秀継同吉良サツ子同荒井成子の連帯負担とし、その一を原告株式会社中西製作所の負担とする。

七、この判決は原告ら勝訴の部分に限りそれぞれ仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告ら

被告は、原告吉良秀継に対し金八二九万五六三五円、同吉良サツ子に対し金七八〇万〇〇二〇円、同吉良成子に対し金一二四万円、原告株式会社中西製作所に対し金一七五万三五四三円および同各金員に対する昭和四三年一〇月七日からいずれも完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

訴訟費用は被告の負担とする、との判決および仮執行の宣言を求める。

三、被告

原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする、との判決を求める。

第二、事実関係

原告の請求原因および抗弁に対する答弁

一、事故の発生と訴外吉良博親(以下訴外亡博親という)の死亡

昭和四三年一〇月七日午後二時五分ごろ、名古屋市緑区大高町熊野山一番地名四道路において、訴外宮木敏雄は、被告会社所有のコロナバン(三重五ふ三七―八三)を運転して名古屋市方面より刈谷市方面へ向けて時速約六〇キロメートルで進行中、同所を刈谷市方面から名古屋市方面に向けて対向進行して来た訴外亡博親の運転する原告会社所有のパブリカトラック(大阪四ほ三六―九二)に本件コロナバンを正面衝突させ、その衝撃により同訴外人をして同日午後三時四〇分名古屋市瑞穂区瑞穂通一丁目二七番地名古屋市立大学病院において全身打撲のため死亡するに至らしめた。

≪省略≫

三、原告秀継・同サツ子・同成子の蒙った損害

(一)  訴外亡博親の蒙った損害の相続分

(イ) 逸失利益 金一二六八万五九三三円

訴外亡博親は昭和二四年八月二九日に生まれ、本件事故当時一九才の健康な男子であって、同四三年三月私立熊本第一工業高等学校を卒業後同年四月厨房機器製造並販売を業とする原告会社に入社し、本件事故により死亡するまでの間原告会社に勤務し、原告会社名古屋支店営業職員の業務に従事していたものである。

厚生大臣官房統計調査部発表の第一一回生命表によれば、右年令の男子の平均余命は四九・九九年である。

従って、同訴外人がもし本件事故に遭遇しなければ、なお右年数の間生存しえたものである。

原告会社就業規則は満五六才に達した月をもって従業員の定年としているが、定年に到達した以後も一〇年間は会社の嘱託として雇用を継続することとしているので、同訴外人は原告会社において満六六年に達するまで稼働可能であったものである。

同訴外人は本件事故当時金二万八〇〇〇円の平均月収と年間金四万七〇〇〇円の特別手当を得ることができたはずであるから、満一九才時において得べかりし収入は右金額に相当するものということができる。

同訴外人の満二〇才以降の得べかりし収入については労働省労働統計調査部編昭和四二年賃金構造基本統計調査報告第四巻第一表F34機械製造業に記載された企業規模一〇人以上の企業における「年令別平均月間定期給与額」および「平均年間賞与その他の特別給与額」に基づいて算出するのが最も蓋然性の高い計算方法である。

そこで、右方法に基づく同訴外人の得べかりし収入は別表第一AないしC欄記載のとおりである。

したがって右収入のうちから同訴外人の生活費を控除するとその残余の純収入がすなわち同訴外人の将来得べかりし利益であるということができる。

そこで同訴外人の生活費を計算するにあたっては、厚生省大臣官房統計調査部編人口動態統計によれば、男子の平均初婚年令は二七才余、夫婦間の出生児数は概ね二名程度となっていることが知られるから二六才までは単身世帯主として、二七才以後は夫婦二人の世帯として、三〇才からは扶養すべき子供二人を加えた世帯の、それ以後は子供は一九才以降は世帯を離れる世帯の世帯主として推移するものと考える。

その場合、同訴外人の生活費の家族全員の生活費に対する割合を「扶養家族の消費単位指数」(本人一・〇、配偶者〇・九、五才未満の子〇・三、一一才未満の子〇・五、一四才未満の子〇・六)により算定すると、同訴外人の生活費率の推移は別表二および別表一D記載のとおりとなる。

そして同訴外人の生活費の額については、労務行政研究所編「全国都市別標準生計費」により名古屋市における独身男子(一八才程度)の標準生計費が一万三四七〇円であることが知られるから、一九才から二六才までの単身世帯主時代の生計費は右金額に相当するものとしてこれを得べかりし収入から控除することとし、二七才以降六五才までの生活費については、右資料により、名古屋市内における世帯人員二名の場合の生計費は月額二万五六二〇円であり、世帯人員四名の場合の生計費は月額四万二四五〇円であることが知られるから、これに同訴外人の前記生活費率を乗じて得られた金額が生活費であることになる。その内容は別表第一DおよびE欄に記載のとおりである。

右のようにして得られる同訴外人の将来得べかりし利益(別表第一F欄記載のとおり。)を本件事故発生時点において算定するため、右得べかりし利益を年毎ホフマン式計算方法により民法所定の年五分の法定利率による中間利息を控除して算出すると金一二六八万五九三三円(円未満切捨)となり、同訴外人は本件事故により右同額の財産的損害を受けたということができる。

≪省略≫

(ニ) 職員喪失による損害 金一〇一万六三四三円

原告会社は、本件事故による訴外亡博親の死亡により、その職員一名を失ったが、現今の求人難に鑑みて、右事故の発生した一〇月という時期においては適切な人材が得られないということから、右の欠員については、事故の翌年四月に新卒者を新規に採用するまでは補充ができなかった。

ところで、原告会社名古屋支店の昭和四三年三月から九月までの月間売上平均は、別表六のとおり、金七三九万五七四五円(円未満切捨)であるところ、製品原価、従業員給与等の諸経費を控除した同支店の純利益は二〇%を下まわらないから、二〇%として計算すると、同支店の月間の平均利潤は、金一四七万九一四九円となる。

同支店の本件事故当時の従業員は、支店長以下六名であるから、右月間平均利潤を、右従業員数で除した結果得られた、金二四万六五二四円(円未満切捨)が、一人の従業員により、同支店が一ヵ月間に得る利潤であるということになる。

ところが、訴外亡博親は新入社員であったから、そのことを考慮に入れて、他の社員の七〇%の働きをするものとして計算すると、同支店が、同訴外人を使用することにより、一ヵ月間に得たであろう利潤は、金一七万九五六六円であるということになる。

本件事故以後、新社員を採用するまで欠員を生じていた時期は、約五ヵ月と二〇日間であるので、右同訴外人のあげたであろう月間利益に、五・六六(小数点二位以下切捨)を乗じて得られた、金一〇一万六三四三円(円未満切捨)が、職員喪失により、原告会社の蒙った損害であるということになる。

≪省略≫

被告の主張および抗弁

一、本件事故発生については、訴外宮木敏雄にも過失があったが、訴外吉良博親にも過失があり、両者の過失が本件事故発生の原因となっているから、損害賠償額の決定に当り過失相殺がなさるべきである。

二  ≪省略≫

三、亡博親の逸失利益算出について

(一)  原告らは亡博親の就労可能年数を満六五才までと主張するが、原告会社の就業規則によれば従業員は満五六才を以て停年退職し、その後は原告会社が業務上の都合により特に必要と認めた場合に嘱託として勤務させることがあるにすぎないところ、亡博親について特に業務上必要とする事情は認められないから、同人は満五六才を以て原告会社を退職するものと推定するのが相当である。

(二)  また原告らは、統計表の金額を引用するに当り原告会社が統計類別上は機械製造業を営む企業に当る旨主張しているが、原告会社がその主張の如く厨房機器製造並びに販売を業とするものとすれば、統計表の類別上は家具、装備品の製造業を営む企業に該当するものである。

従って、請求原因第三項の(一)の(イ)に記載の統計表より引用した金額を亡博親の事故後に於ける収入とするのは、右の点からも失当である。

(三)  而して、原告会社の賃金並びに昇給規定によれば、昇給は毎年一二月一日付を以って勤務成績を考慮して昇給させ、また物価の騰貴その他社会状勢により臨時に昇給させることがある旨定められているから、勤続年数の増加(従って亡博親の年令増加)に応じてある程度の収入の増加があることは一応推測できるが、その具体的な金額を推定することは不可能である。

従って、かかる場合に死亡者の逸失利益を算出するに当っては、事故前に現実に取得していた金額を計算の基礎として算出するのが相当である。

(四)  ところで、原告らは逸失利益算出表に於て亡博親の年令の増加に応じそれぞれ一定金額の収入増が確実にあるものと推定しまた扶養家族も逐次増加するものと推定し、これを同人の逸失利益算出の基礎とすべき旨主張しているが、仮に収入に関する右推定が合理的であるとしても、右算出表にて推定された亡博親の扶養家族及び生活費は全く現実ばなれのした不合理なものであり、従ってホフマン係数を乗ずる以前の年間逸失利益も全く不合理である。

即ち、本件の場合、現実に亡博親の逸失利益を請求し、これを取得するものは原告秀継と同サツ子の両名であるが、本件事故当時原告秀継は満五三才、同サツ子は満四九才であり、同原告らはいずれも亡博親の住所とは遠隔の地にて農業により生活していたものであって、亡博親に扶養されていた者ではない。

勿論、右原告らが農業に従事できない年令に達してなお生存していた場合には、同人らが亡博親の扶養家族となることはあり得ることであるが、これは全く不確実なことであるから、亡博親の逸失利益を算出するに当って右の点を計算に入れるのは相当でないし、またその必要もないのである。

従って、特段の事情のない限り亡博親が一生を通じ独身世帯者であると推定することはできないけれども、同人の妻及び子供が原告として本訴請求に参加しているものではないから、右原告らが現在の時点に於て取得するところの亡博親の逸失利益を算出するに当っては、同人が独身世帯者であることを前提としてその生活費を合理的に推定し、これを合理的に推定された収入額より控除し、以て妥当な逸失利益額を算出すべきである。

(五)  ところが、原告ら主張の如き逸失利益算出表によると、結局は亡博親の全就労期間中の一ヶ月平均の収入は金五万九七五八円と推定される一方、一ヶ月平均の生活費はわずか金一万四三四一円(収入額との割合は二四%弱)と推定され、その差額金四万五四一七円が一ヶ月平均の逸失利益とされているのであるが、かくの如き生活費の絶対額や収入額との比率は独身世帯に関する後記統計の数値に比して極めて低額であって、これは四人ないし五人の扶養家族をもつ世帯主自身の生活費と言うべきであり、従ってまた逆に右逸失利益は四人ないし五人の扶養家族の生活費に該当するものと言うべく、扶養家族が一人も存在せず従って原告ともなっていない本件の場合には全く不合理な逸失利益の算出方法と言わざるを得ない。

これは多額の逸失利益を算出するための仮定の積重ねによる数字の魔術にすぎないのであって、この結果は中間利息控除後の逸失利益金一二六八万円に対する年七分三厘の投資信託の利息金九二万五六四〇円は、いかなる年度の逸失利益よりも多額であるばかりでなく、生活費を控除する以前の年平均の収入額よりも多額になるという不合理な結果をもたらしているのである。

(六)  ところで、前述の如く若しも原告ら主張の如く年令に応じた収入増加を計算の基礎とするときは、結局は同種企業に従事する常用労務者の平均収入を計算の基礎とするのと同一に帰するのであるが、昭和四四年度の日本統計年鑑によると、家具、装備品の製造業を営む企業に従事する男子常用労務者の昭和四三年度に於ける一人一ヶ月平均収入は金四万八二〇〇円である。

而して右統計年鑑によると昭和三九年度に於ける独身者世帯の常用労務者の一ヶ月当り実収入は金二万一七〇四円であり実支出はほぼ一万七四四〇円であって、生活費の割合(生活費率)は八〇%強であるが、昭和三四年度に於ける男女平均の生活費率と昭和三九年度に於けるそれとはいずれも約八四%であって変化がないことから見て、右の生活費率約八〇%は昭和四三年度(本件事故当時)に於ても殆ど変らないものと推定される。

そうとすれば、原告ら主張の如く年令に応じた増加収入額を計算の基礎とするにせよ、また同種企業の従業員の平均収入額を計算の基礎とするにせよ、これらを計算の基礎とする以上は、それより控除すべき生活費も収入の八〇%とするのが相当であり、その差額を前記原告両名が取得すべき亡博親の逸失利益と解すべきである。

そうとすれば、右逸失利益は結局左の通り約二六五万円ないし約三五七万円となる。

(1) 原告会社の業種を家具、装備品の製造業とした場合

48,200円×(1-0.8)×12×22.92=2,651,385円

(2) 金属製品の製造業とした場合

60,900円×(1-0.8)×12×22.92=3,349,987円

(3) 機械の製造業とした場合

64,900円×(1-0.8)×12×22.92=3,570,019円

≪以下事実省略≫

理由

一、原告ら主張の日時場所にて訴外宮木敏雄運転の被告東和繊維工業株式会社所有の普通乗用車と亡吉良博親運転の原告株式会社中西製作所所有の普通貨物自動車と衝突し、同日博親が死亡したことは当事者間に争がない。

二、しかして右事故態様は≪証拠省略≫によれば原告ら主張のごとき態様であったことが認められるから右宮木に過失があったことは明らかである。

被告は亡博親にも過失があったと主張するが右認定の事故態様からして同人の過失は認め難い。

三、被告会社は右乗用車の運行供有者であったことは当事者間に争がなく、又右宮木は当時被告会社の従業員で社用のため右乗用車を運転中本件事故を惹起したものであることは≪証拠省略≫によって明らかであるから、被告会社は人的損害につき自賠法第三条、物的損害につき民法第七一五条一項によりそれぞれ原告らに対しその損害を賠償すべき義務がある。

四、先ず原告吉良ら主張の損害について判断する。

(一)  亡博親の損害

(イ)  逸失利益 金三九六万〇五二八円

≪証拠省略≫によれば亡博親は高校を卒業して直ぐ給食器機の製作販売等を目的とする原告会社に入社し約六ヵ月後に本件事故に遭い、当時一九才でその一ヵ年間の給与等の収入は金三八万三〇〇〇円(原告主張の327,000円は計算違いか)を得られる筈であったことが認められる。

又労働省の昭和四二年版賞金構造基本統計調査報告によって、原告会社の業種、規模に相当する全国一般被用者の二〇才から六五才までの一〇回に分つ段階的年間収入は原告ら主張のごとくであることが認められる。

それで博親の右一九才の年の収入金三八万三〇〇〇円と、右段階的年間収入による二〇才から五九才までの間の九段階総収入の合計金六八七万一九〇〇円との総計金七二五万四九〇〇円から平均年収を算出すれば金七二万五四九〇円となることが明らかである。

そこで博親の生活費について検討する。

妻や子をもつ世帯主の生活費は約三割と通常見られている。博親は事故当時一九才の独身者であったから、やがて妻や子をもつ世帯主となった筈であるから終生独身者としてその生活費を考えることは相当でなく又現実には養うべき妻子が存しないのであるから、生活費を本人自身の右約三割のみとし元来妻子の生活費に充てらるべき分までも逸失利益に計上することは損害額算定の蓋然性に副わない。

それで博親本人はもちろん妻子の生活費を含めた世帯生活費を博親の必要生活費として同人の収入金額から控除した額を同人の逸失利益とするのが相当と考える。

ただ右の考えによると、加害者にとっては、被害者の収入が同一であっても、被害者が本件のような独身者である場合と妻子をもつ世帯主である場合とによって賠償すべき逸失利益にかなりの差が出るが、それは親兄弟は別として、妻子ある者とそうでない者との被害者の大なる境遇の差による結果であるから当然のことと云わねばならない。

しかるところ昭和四四年版日本統計年鑑によれば、本件事故当時における二〇才から二四才までの独身者世帯の実収入に対する生活費率は約八四%であり又名古屋市在住の勤労者世帯の平均生活費率は約七三・二%(実月収金九万四七七二円世帯生活費金六万九五四〇円)であることが認められるから、博親の世帯生活費率は独身、家族持を通じて少くとも七三%を下らないと見られ、前記平均年収からこの率によるいわゆる生活費を控除すれば残収入は金一九万八八二円となる。

しかして博親の稼働年令は六〇才と見るのが相当であるが、年五分の割合の金額が右金一九万五八八二円を上廻るに至る稼働年数三六年で打切るのが相当と考えられるので、これによって博親の逸失利益を算出すれば金三九六万〇五二八円となる。

(ロ)  慰藉料 金一八〇万円

博親はあたら青春を過失なくして交通事故により一命を失ったのであるからその慰藉料は金一八〇万円と定める。

(ハ)  病院費用

原告吉良ら主張の病院費用は支払済であることは当事者間に争がない。

亡博親の損害は右(イ)(ロ)の合計金五七六万〇五二八円となるところ、≪証拠省略≫によれば原告秀継は博親の父であり原告サツ子はその母であることが認められるから、博親の死亡により右原告らは博親の被告会社に対する右(イ)(ロ)の損害金合計五七六万〇五二八円の賠償請求権の二分の一ずつ金二八八万〇二六四円の請求権をそれぞれ相続した。

(二)  原告ら固有の損害

(イ)  原告秀継同サツ子の慰藉料 各金七〇万円

≪証拠省略≫によれば原告秀継夫婦は博親と原告成子の一男一女を有していたが、博親を失って子は原告成子一人となったこと、原告秀継は大正四年生れ、原告サツ子は大正八年生れで本件事故当時すでに五十の坂を超え、あるいは超えんとしていたことなど諸般の事情を参酌して右原告らの慰藉料は各金七〇万円と定める。

(ロ)  原告成子の慰藉料 金三〇万円

≪証拠省略≫を総合すればこの点に関する原告成子の主張事実が認められそれらの事情を参酌すれば同原告に慰藉料を認むべくその金額は三〇万円と定める。

(ハ)  原告吉良らの交通費等 金五万六三八〇円

≪証拠省略≫によれば原告秀継がその主張する交通費等を出費したことが認められるがその費用のうち郷里の熊本県菊池市から名古屋まで原告親子三人分の交通費は相当と認められるがその他の費用は本件事故に因る相当なる費用とは認め難い。しかして右認容できる相当費用は金五万六三八〇円である。

(ニ)  葬儀関係費用 金二六万八〇〇〇円

原告秀継本人尋問の結果によれば原告秀継はその主張の金二六万八〇〇〇円の葬儀関係費用を出費したことが認められ、その金額は相当な損害と認められる。

(三)  保険金受領

原告秀継同サツ子はその主張のごとく自賠責保険金三〇〇万円を、それぞれ金一五〇万円ずつ受領したと自認しており右以上の金員の支払については被告の立証がない。

(四)  弁護士費用 原告秀継分金二七万円

同サツ子分金二〇万円

同 成子 分金三万円

本件訴訟における諸般の見地から頭書の金額を相当と認める。

五、原告吉良らに認容する損害金

右の次第であるから被告会社は、原告秀継に対し合計金二六七万四六四四円、原告サツ子に対し合計金二二八万〇二六四円、原告成子に対し合計金三三万円の損害金を支州うべき義務があること計算上明らかである。

六、次に原告会社主張の損害について判断する。

(一)  自動車の損失 金一五万五〇〇〇円

原告会社がその主張のごとき損害を受けたことは当事者間に争がない。

(二)  代車費用    金三万九五〇〇円

≪証拠省略≫によれば、原告会社主張のごとき損害が認められる。

(三)  原告会社の葬儀費用

原告会社主張の葬儀費用が被告から支払われたことは当事者間に争がない。

(四)  職員喪失による損害

原告会社にその主張のごとき不都合が生じ経済的にはいくばくかの不利益を蒙ったことが認められるが、会社の運営を著しく害される場合はしばらく別として、この程度の被害は現代社会事情の下における企業者として受忍すべきものと云うべく、結局本件事故と右損害は相当因果関係にないものと断じなければならない。

(五)  弁護士費用       金三万円

本件訴訟における諸般の見地から金三万円を相当と認める。

七、原告会社に認容する損害金

右の次第であるから被告会社は原告会社に対し前示六の(一)(二)(五)の損害合計金二二万四五〇〇円を支払う義務がある。

八、結び

よって原告らの本訴請求は、被告会社に対し、原告秀継は右損害金二六七万四六四四円、原告サツ子は右損害金二二八万〇二六四円、原告成子は右損害金三三万円、原告会社は右損害金二二万四五〇〇円および原告秀継についてはうち金二四〇万四六四四円、原告サツ子についてはうち金二〇八万〇二六四円、原告成子についてはうち金三〇万円、原告会社についてはうち金一九万四五〇〇円に対する本件事故の日である昭和四三年一〇月七日から、又原告秀継についてはうち金二七万円、原告サツ子についてはうち金二〇万円、原告成子についてはうち金三万円、原告会社についてはうち金三万円に対する本判決言渡の日からそれぞれ年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを正当として認容し、爾余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条に則って主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 西川力一 裁判官 藤井俊彦 柄多貞介)

〈以下省略〉

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